初めて太陽光発電の導入を検討する場合、分からないことが多くて戸惑うことも多いはずです。たとえば、その一つに力率制御があります。太陽光発電導入の際、ほとんどの電力会社から「パワーコンディショナーの力率制御」を要請されます。そして、それがどういったものかを理解するためには電圧や力率などについての知識が必須です。そこで、初心者でも分かるように、それらについて順を追って解説をしていきます。
家庭でも電力を売れる時代に
“太陽光発電の基本原理がアメリカで発見されたのは1954年のことであり、1958年には初めて太陽電池の開発に成功しました。それ以降、太陽光発電はさまざまな分野で用いられ、1993年には日本で住宅用電力の太陽光発電が行われるまでになったのです。初期の段階では実際の導入件数はほんのわずかでしたが、それも年を追うごとに増えていきます。特に、2010年代に入ってからの伸びが顕著です。その背景には東日本大震災による意識の変化があったと考えられます。つまり、災害が起きても利用可能なエネルギーを確保しておこうというわけです。
それに、太陽光発電などの再生可能エネルギー発電を利用すると、余った電気を電力会社に売電できるというのも強力な後押しになったと考えられます。太陽光発電システムを導入するだけで発電事業主になれるというのは大きな魅力です。ちなみに、太陽光発電機器のある住宅総数は2003年の段階では全国で28万戸でした。これは全国総住宅数の約0.6%にあたります。それが2008年には約52万戸(1.0%)、2013年には約157万戸(3.0%)と順調な伸びをみせています。特に、持ち家の伸び率が高く、2003年の時点で26万戸(0.9%)だったのが、2008年は50万戸(1.6%)、そして、2013年は148万戸(4.6%)にまでなっているのです。
その後も太陽光発電システムの導入件数は伸びており、こうした事実は一般家庭でも電力を売るのが当たり前の時代がやってきたことを示しています。”
再生可能エネルギーは電圧変化に対応する必要が
“太陽光発電などの再生可能エネルギーを導入することによって、電力会社に電力を売る売電が可能になります。ただ、そのためには電線の電圧より発電電圧のほうが高い状態であることが必須となります。なぜなら、電気は電位の高低差で圧力がかかり、高電位から低電位に流れるようになっているからです。もし、電位の高低差がなければ電気はその場に留まり続けることになります。そこで、問題になってくるのが家庭用などに用いられる分散電源です。
分散電源とは比較的小規模の発電装置を指します。その装置の普及によって一般家庭でも電力会社に電力を売ることが可能となったわけです。しかし、分散電源には電圧が変化しやすいという難点があります。電圧がコロコロ変わってしまっては売電のための電力を安定して電力会社に送ることができません。一方、火力発電などの従来の発電方法は集中発電と呼ばれ、電圧も安定しています。そのため、昔は電圧の変化による弊害も問題視されることはなかったのですが、太陽光発電のような分散電源の登場によって、電圧の変化による弊害の問題に対応せざるを得なくなったのです。そして、それがパワーコンディショナーの力率制御を電力会社から要請される理由でもあります。”
売電するには「力率」の知識が重要
“売電を始める際に電力会社から力率制御の要請が来るため、まずは力率の知識が重要になってきます。そもそも、力率とはなにかというと、電力の効率を表す値です。もっとくだいていえば、電源から注入された電力がどれだけ使われているかを示したものです。多くの人は発生した電力は当然、すべて消費しているのだと思いがちです。しかし、実際はそうではありません。電力は「電流×電圧」で求められますが、変圧器や安定器を電流が通ることで電流と電圧の間にタイムロスが生じ、使用できる電力が減ってしまうのです。
ちなみに、力率は「有効電力÷皮相電力」で求めることができます。皮相電力とは電源から送り出されている電力、有効電力とは負荷によって消費される電力を意味します。そして、有効電力と皮相電力の値が全く同じ場合に力率は100%となるわけです。効率よく電力を活用するには100%を維持しているのが最も理想的な状態です。ところが、現実問題として、力率が100%になるケースはまずありません。85%を超えれば高い方です。そのため、力率85%以上を「高力率」、力率85%未満を「低力率」として区分されています。この力率は電気料金にも反映され、85%を上回っていると1%上がるごとに1%の割引が適用され、逆に、85%を下回ると1%下がるごとに1%割増されることになります。”
パワーコンディショナーの力率一定制御とは
“力率は電力効率のことですが、それではパワーコンディショナーの力率一定制御とはなにかというと、出力が最大の場合に限って電力が力率分だけ制御されるという意味です。たとえば、パワーコンディショナーの最大出力が10kwで力率が95%だとすると、電力出力が最大の場合は5%分が抑えられて9.5kwの出力になります。そして、ここで注意が必要なのは常に力率が95%に保たれているわけではないという点です。あくまでも、出力が最大値になった場合のみ、電力は制御されます。
ちなみに、パワーコンディショナーとは太陽光発電システムなどで発電された直流電流を交流電流に変換する機器のことです。これがないと、家庭などで電気を利用することができません。しかも、パワーコンディショナーには容量があります。その値をオーバーすると過積載とよばれる状態になり、危険です。安全のためには使用するパワーコンディショナーの容量をオーバーしないように気をつける必要があります。
たとえば、7kwの太陽発電システムを設置したなら、パワーコンディショナーも7kwでよいと思いがちです。しかし、太陽光パネルは条件次第では設定以上の発電をすることがあります。したがって、パワーコンディショナーの容量は太陽光発電システムの設定上の発電量よりもやや上のものを選んだ方が無難だといえるでしょう。”
力率一定制御はどのように行われている?
“交流回路の電力には3種類あり、それは「有効電力」「無効電力」「皮相電力」です。まず、有効電力とはその名の通り、実際に使用可能な電力のことで消費電力とも呼ばれています。それに対して、無効電力は使用不可な電力のことであり、この電力をいくら消費しても電気モーターは動きません。最後の皮相電力は有効電力と無効電力を合わせた、電源から注入されるすべての電力を指します。そして、力率一定制御を行うのに必要なのが無効電力であるというわけです。
売電先の電力会社は電圧上昇を防ぐために、あえて電力として実用性のない無効電力を使用しています。電力会社から注入された無効電力は電気会社と太陽光発電システムの間を行き来し、力率が必要なレベルを超えて上がらないようにストッパーの役割を果たしているのです。なぜ、そんなことをするかというと、力率を限界まで上げることで周辺の系統電力の電圧が上昇するリスクが高くなってしまうからです。そうなると、電気事業法の規定以内に収まらなくなってしまうおそれがでてきます。
そもそも、電気モーターなどは有効電力だけで動いているわけではありません。有効電力が仕事をするためには、実は一定量の無効電力も必要なのです。もちろん、無効電力が多すぎるのも問題なので、力率85%以上が高力率という具合に、目安となる基準が設けられているというわけです。”
電力会社が力率一定制御を要請した背景とは
“2017年に、「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」、通称・再エネ特措法が施行されました。電力会社が一定期間、再生可能エネルギーから作られた電気を国の定めた価格で買い取ることを義務付けた法律です。この法律ができたことで再生可能エネルギー発電設備の普及率は一気に高まりました。それまで電力シェアのほとんどすべてが発電所からのものだったのが、大幅に様変わりしたのです。そのため、電力会社は配電系統の電圧維持が困難になり、地域の供給電圧を適性に維持するための対策に迫られます。
そこで、大手電力会社が有効電力と無効電力のバランスを保つために始めたのがパワーコンディショナーの力率一定制御の採用要請だったというわけです。ただ、具体的な力率をどの程度にしているかは会社によって異なります。たとえば、東北電力においては、高圧配電線の発電設備連係によるパワーコンディショナーの力率一定制御(80~95%)を採用要請しています。それに対して、関西電力では低圧パワーコンディショナーの力率一定制御(95%)を採用要請しているといった具合です。したがって、太陽光発電システムを導入する際には、自分が契約している電力会社の採用要請がどのような設定になっているかを確認しておいた方がよいでしょう。”
力率一定制御にはメリットがある!
“パワーコンディショナーはソーラーパネルで発電した直流電流を家庭などで使いやすい交流電流に変換する役割を担うと同時に、無効電力も作り出しています。しかも、その電力は太陽発電由来のものではありません。電力会社と連結している電力系統から作り出されているのです。つまり、コンディショナーにはソーラーパネルと電力会社からの双方から電力が送られてくることになります。これはかなりの負担です。しかし、あらかじめ力率一定制御機能がついたパワーコンディショナーを設置すれば、無効電力を作り出すのは有効電力が基準割合を超えているときだけですみます。その結果、パワーコンディショナーの負担を最小限に抑えることが可能になります。
一方、力率一定制御を用いなかった場合は有効電力の割合に関係なく、電圧上昇を感知している限りは無効電力を注入し続けなければなりません。電圧上昇の原因は有効電力の割合が増えたためだけとは限らないため、パワーコンディショナーは余分な無効電力を作り出してしまうことになります。こうして比較をしてみると、力率一定制御には太陽光発電システムを導入する側にとっても大きなメリットがあることが分かるはずです。”
発電事業者は何かする必要はある?
“電力会社から力率一定制御の要請をされた場合、気になるのはやはり、具体的に何をすればよいのかという点です。結論からいうと、力率一定制御に関しては特に何もすることはありません。少なくとも、自分自身でパワーコンディショナーの設定を確認したり、力率の設定変更を行ったりといった作業は不要となります。これは既設の発電所がある場合でも、これから申請する発電所でも同じです。なぜなら、力率一定制御の要請の対象となる発電所に関しては、既にメーカー側が出荷時に設定を行っているからです。ちなみに、メーカーに依頼して設定を変更してもらうといったケースもありません。つまり、設定に触れるのはメーカーのみであり、発電事業者はその点に関しては一切ノータッチということになります。
なお、対象ではない発電所に関してはそもそも力率一定制御の対象外であるため、設定の確認自体が不要となります。また、対象となる発電所であっても、パワーコンディショナー自体が制御非対応品であれば設定ができないため、新たに対応するような要請も必要はないのです。以上のように、どのようなケースでも事業者側が特に行うことはないわけです。”
今後の申請における注意点
パワーコンディショナーの制御方式には「皮相電力一定方式」と「有効電力一定方式」の2種類があります。そして、注意すべきなのは申請時に制御方式を選択する項目があるという点です。しかも、どちらの方式を採用しているかはメーカーにしか分かりません。そのため、申請を行う前にメーカーに問い合わせて自分の所有しているパワーコンディショナーがどちらの方式なのかを確認する必要があります。ただし、パワーコンディショナーは必ずしも力率制御に対応しているとは限りません。中には制御非対応品も存在するので注意が必要です。この場合もやはり、メーカーに問い合わせ、確認の上で「非対応」を選択することになります。
まとめ
“太陽光発電システムの普及によって誰でも電気を作れる時代がやってきました。しかも、単に作った電気を自分で消費するだけでなく、電力会社に販売することもできるのです。しかし、家庭用などの分散電源は電圧が不安定だという問題があります。そのため、太陽光発電を導入する際には適正な電圧を維持するための電圧変動対策が望まれています。同時に、今後はさらに太陽光発電システムを設置する家庭が増えると予想されているため、それに対する電圧変動対策も欠かせません。
そうした状況の中で重要な鍵を握るのが力率一定制御の存在です。力率一定制御とはどういったものかをよく理解し、電圧変動対策について学ぶことで、トラブルのない効果的な売電へとつなげていきましょう。”
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