「環境に優しく、持続可能なエネルギー」として、太陽光発電エネルギーが注目を集めています。発電設備で作った電気を売電することもできるため、導入を検討している家庭も多いのではないでしょうか。以下からは、発電に関わる仕組みや様々な専門用語、リスクなどについて解説していきます。スムーズに設備を導入するために参考にしてください。
家庭で発電した電気の買い取りが増えている
“現在、家庭で発電した電気を電力会社に買い取ってもらうケースが増えています。増加の理由として挙げられるのが、「固定価格買い取り制度」の開始です。「固定価格買い取り制度」は通称「FIT(Feed-in Tariff)」とも呼ばれていて、発電した再生可能エネルギーを、電力会社が一定期間、同じ価格で買い取ることを国が保証する制度のことです。ドイツやスペインなど、海外ではかなり以前から導入されていますが、日本では2012年から始まりました。その後、2017年に制度改定されています。
基本的に、私たちが普段の生活の中で使用している電気は、電力会社から一方通行で供給されている電力です。家庭側から発電した電力を送るという、逆の流れはできません。しかし、太陽光発電を導入して電力会社と売電契約を結ぶと、発電システムを電力会社の送電線につなぎます。結果として、発電した電気を電力会社に送り、固定価格で買い取ってもらうことができるようになります。とは言え、太陽光発電電力を電力会社が買い取るには、当然のことながらコストがかかります。そのため、電力会社は電気を使用しているそれぞれの家庭から、「再生可能エネルギー発電促進賦課金」を徴収し、買い取りにかかる費用の一部を賄っているのです。
「再生可能エネルギー発電促進賦課金」は、「再生可能エネルギー発電促進賦課金単価×電気使用量」で計算できます。「再生可能エネルギー発電促進賦課金単価」は国が毎年、全国一律の価格を決定します。例えば、平成29年5月から平成30年4月までの単価は2.64円/kWhで、平成30年5月から平成31年4月までの単価は2.90円/kWhと定められています。”
系統連系の役割と特徴について
“太陽光発電システムを設置したとしても、そのままでは電力会社に電気を買い取ってもらうことはできません。なぜならば、普段使用している電気は電力会社から送られてくるのみで、家庭側から電力会社へ電気を送ることはできないようになっているからです。売電するために、まずは「系統連系」工事をしなければなりません。「系統連系」というのは、太陽光や風力などで発電した電力を、電力会社から受電している電力につなぐ技術のことを言います。
「系統連系」することによって、電力会社との電気のやり取りができるようになります。つまり、自家発電した電力だけで使用電力を賄うことができない場合には、負荷電力を電力会社線から供給される電気で補完します。逆に、自家発電で余剰電力が発生した時には、電力会社線へ電気を逆流させることが可能となるのです。系統連系には3つの種類があります。1つ目は「低圧連系」です。低圧連系は、発電システムの容量が50kW未満の場合に用いられます。50kW未満というのは、一般家庭や商店が設置するような容量です。
2つ目は「高圧連系」です。小規模の工場やビルなどに設置される、50kW以上2000kW未満のシステムで行われます。最後の3つ目は、「特別高圧連系」です。2000kW以上の大型システムに用いられます。種類によって系統連系の工事の内容が異なります。また、売電設備には管理費用もかかりますが、基本的には電圧が上がるほどに、工事費用や管理費用も高くなる仕組みとなっています。”
系統連系を行うために必要なこと
“系統連系工事を行うことで、発電した電気を電力会社に送ること自体は、技術的には可能になります。しかし売電のためには、それだけではまだ不十分です。太陽光発電は自然のエネルギーを利用したものであるため、気象条件や日照量によって出力が大きく変動してしまいがちです。ところが、電力会社に売電するのであれば、電力会社から送られてくる電力と同じような品質の電気でなければなりません。もし、電圧や周波数が異なる状態のままで送電線に接続してしまうと、電力会社のシステム全体に影響を与えて、電力供給を不安定にしてしまう危険性があるのです。
そこで系統連系工事をする際には、電力の品質を整えて安定させるための設備も、併せて設置することが必要となります。具体的には、パワーコンディショナーや接続箱、売電電力計などが、品質を安定させるための設備です。パワーコンディショナーは、発電時の直流電力を交流電力に切り替えると共に、電圧調整や周波数調整を行います。”
安定した「電力の品質」とは?
前述したように、売電するためには「電力の品質」を安定させることが必要ですが、この「電力の品質」とはどのようなものなのでしょうか。この点については、平成28年に経済産業省資源エネルギー庁が、「電力品質確保に係る系統連系技術要件ガイドライン」という指針をまとめています。この中で電圧や周波数については、電力会社の定めた規定値の範囲内に収めるということが求められています。例えば、低圧連系の常時電圧について見てみると、標準電圧が100Vの場合には101±6Vの範囲に、標準電圧が200Vであれば202±20V内に維持することとなっています。
逆潮流とは?
“太陽光発電による売電を検討するようになると、「逆潮流」という言葉を耳にすることも多くなるでしょう。「逆潮流」というのは、電力会社に向けて家庭側から電気を送ることです。電力会社から電気の供給を受けているのが通常の状態とすると、それとは逆の方向に電気が流れるため、「逆潮流」と呼ばれています。逆潮流が行われるためには、系統連系工事が済んでいる送電線網において、消費する電力よりも自家発電する電力が多くなることが必要です。その状態になると、余剰電力が電力会社へ向かって戻っていくことになります。
電力会社は逆潮流によって得た電力を、他の家庭などに供給することができるようになります。つまり逆潮流が確認できて初めて、一般家庭も発電所として機能できるということになるのです。”
電気の買い取り価格はどれくらい?
“太陽光発電システムを設置すれば自宅で使用する分の電気を賄う事ができ、さらに電力会社に売って収入も得られるため、良いことずくめのように感じられるかもしれません。しかし一点、売電価格の変化にはあらかじめ充分に留意しておくことが大切です。売電価格、すなわち発電した電力を電力会社が買い取ってくれる際の価格は、年々下がっています。住宅用10kW未満の容量のシステムで見ると、平成21年の11月から平成22年度までに電力会社への契約申し込みを実施した場合には、売電価格は48円/kWhでした。
ところが、平成23年度に新たに契約申し込みをしたケースでは42円/kWhに、平成25年度申し込みとなると38円/kWhまで下がっています。その後も、毎年37/kWh、33/kWh、31/kWhと買い取り価格は下がり続け、平成29年には28/kWh、平成30年には26/kWhとなっています。このように買い取り価格が下げられているのには、どこに理由があるのでしょうか。そもそも、固定価格買い取り制度が始められたのは、再生可能エネルギーの普及を促進するためでした。
制度導入のおかげで太陽光発電の普及はかなり進んだのですが、今度は、手厚い支援に甘んじている太陽光発電事業者の競争を促す必要が出てきたのです。太陽光発電が一定程度普及したこと、太陽光発電事業者の競争を促す必要があること、この2点が、買い取り価格の値下げがされるようになった理由です。こうした事情を考えると、今後も買い取り価格の値下がりは続くと予想されます。”
逆潮流による売電メリットが小さくなる場合も
“売電価格が年々下がっている中でも、特に高圧受電の需要家にとっては、逆潮流による売電のメリットがかなり小さくなってしまうかもしれません。高圧受電というのは、電気の使用量が多い需要家が結ぶ契約で、契約電力が50kW以上のケースを指します。なぜ高圧受電になると、売電のメリットが少なくなってしまうのでしょうか。その理由は、高圧受電では電力設備にお金がかかるからです。高圧で受電するというのは、簡単に言うと「電気の使用量が多い」ということを意味します。しかし、高圧で受電したものをそのままの電圧で使用するわけではありません。
使用する前には低圧に変換して使います。この、低圧に変換するための設備を「キュービクル」と言います。また、電気を売る際にもキュービクルを通して電圧を変換します。そうしないと、同じ系統に接続されている他の需要家に対して、悪影響を及ぼす危険性があるためです。ちなみにキュービクルは、ビルの屋上や学校の裏などにあることが多く、「変電設備」と表示された物置程度の大きさの設備ですから、見たことがある人もいるのではないでしょうか。実はこのキュービクルは、電気を使用する需要家が自前で設置することになっています。そして月ごと、年ごとなどの一定間隔で、設備の保安点検を行うことが義務付けられているため、設備の維持費はどうしてもかかってしまいます。
一方、前項で述べたように売電価格は年々下がっています。これが、高圧受電の需要家にとって売電のメリットが小さくなると思われる理由です。しかし、これらの状況を見て自家発電を諦めてしまうのは、勿体のない話でもあります。売電価格は下がっているとは言え、0円ではないからです。そもそも現在のところ、経済産業省は太陽光発電設備を設置して20年くらいで、ある程度の利益が出せるように価格を決定しているという事情があります。従来よりは売電によるメリットは少ないかもしれませんが、まだまだ利益は望めるでしょう。
さらに、発電システム自体の価格が下がっているということもポイントです。固定価格買い取り制度が始まった当初よりも、同じ容量の発電設備の価格はかなり安くなっています。売電価格の値下がりに気をとられすぎずに、設備費用のことも考えて合理的な判断をすると良いでしょう。”
念のため知っておきたいリスク!バンク逆潮流とは?
“バンク逆潮流という言葉をご存知でしょうか。バンク逆潮流とは、変電所の受け入れ能力を超える電力が、逆潮流で流れ込んでしまう状態です。つまり、系統連系された家庭や事業所などで発電して生まれた余剰電力が、急増する状態を指します。「電気が沢山あるのだから、良いのではないか」と思うかもしれませんが、このバンク逆潮流が起こると、変電所の能力を超えてしまいますので、適切に変圧することができなくなります。そのため、各家庭に安定して電気を供給できなくなったり、電気の品質が下がってしまったりというトラブルにつながります。また、送電線事故の際に電気が回復するまでに、時間がかかることにもつながります。
こうしたバンク逆潮流の現象は、太陽光発電設備の普及率がまだ低かった時代には、起こることはありませんでした。しかし、固定価格買い取り制度が始まるなどして太陽光発電設備が普及すると、バンク逆潮流がしばしば問題となり始めます。特に、メガソーラーシステムのように、大量に電力を発電するシステムが建設されている地域では、問題が顕著です。”
バンク潮流対策に伴って発生した問題とは
“バンク逆潮流によって起こる問題には前述のように、電気の供給が不安定になるなどがあります。しかし現在では、変電所の工事によって配電容量を増設しさえすれば、バンク逆潮流自体は問題ではなくなりました。それに代わって今はまた、別の問題が起きています。バンク逆潮流によって売電収入を得られるどころか、出費がかえって増えるという問題です。工事にお金がかかるからです。工事に必要な負担金は各電力会社によって異なるものの、高いところであれば1kWh当たり3,000円以上の費用がかかってしまうところもあります。
実はバンク逆潮流が問題となり始めてからというもの、各電力会社は、しばらくは配電用変電所に予防措置を設置することで、バンク逆潮流に対応していました。しかしメガソーラーがますます増加してきたため、予防措置では足りなくなってしまったのです。結果として、増設工事をすることが電力会社の急務となっています。ところが、前述したように工事にはお金がかかります。加えて、太陽光発電システムの増加によって工事のための人手が足りておらず、工事の待ち期間は12カ月以上にもなるなど、工事完了までに時間がかかることも問題となっています。”
まとめ
太陽光発電は、システムを設置すればすぐに売電ができるというわけではありません。電力会社と売電の契約を結ぶことは大前提ですが、他にも、電力会社に向けて電気を送ることができるように系統連系の工事をしたり、逆潮流を確認したりすることが必要となります。契約を結んでから系統連系の工事ができるようになるまでに数カ月程度待つこともあるため、早めに計画を立てて取り組むことが大切です。
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