太陽光発電システムは屋根に設置されている状態ではどれも同じようなものに見えて、使われている素材や技術がどのようなものかは中々分かりません。そのため、システムを選ぶ際も、素材や技術についてあまり気にしない人は多いのではないでしょうか。しかし、太陽光発電の技術は、日々世界中で研究開発されています。発電システムに使われている技術によって、場合によっては発電量に大きな差が生まれることもあるのです。そこでこの記事では、太陽光発電の最新技術について紹介します。
太陽光発電の原理について
“ここでは、太陽光発電と太陽電池の仕組みについて解説します。まず初めに、電気について、そもそもどのようなものなのかご存知でしょうか。普段身近にあるものですが、その本質について説明できるという人は実は少ないかもしれません。電気は、「物質の中に存在する電子の数に過不足が生じたり、電子が移動したりする現象」です。物質はものすごく細かい単位に分解すると、最終的には「原子」に行きつきます。この原子の中には原子核があり、原子核の中にプラスの電気を持った陽子があります。
一方、マイナスの電気を持っている電子は、原子核の周囲を回っています。周囲を回っているだけですので、電子は本来自由に動くことができるのですが、陽子と電子は同じ数存在しているために電荷的にバランスが保たれています。そのため、物質的にも安定しているのです。しかし、熱や摩擦、磁力などの何らかの刺激が物質に加えられると、このバランスが崩れて電子が原子の外へ飛び出してしまいます。これが、「電気が発生した」状態です。
太陽光発電は、太陽のエネルギーを利用して、電子の流れを作り出し電気を発生する仕組みです。真夏の正午の太陽光ともなると、1平方メートルあたり約1kWhものパワーを持つほど強烈ですので、そのエネルギーを利用しない手はないのです。そして、その太陽光発電の仕組みを担うのが、太陽光パネルと呼ばれる太陽電池です。少し専門的になりますが、太陽電池はn型とp型と呼ばれる2つの種類の半導体を、重ね合わせた構造をしています。
ちなみに「半導体」は、ある条件によって電気を通したり、または通さなかったりする物質のことです。このn型半導体とp型半導体を重ね合わせた接合面を見てみると、マイナスとプラスに帯電しています。しかし同時に、プラスからマイナスへ向かう電界が生じるため、電子は移動することなく何とか釣り合いを保った状態となっています。ここで太陽の光が接合面に入射すると、どうなるでしょうか。何とか保っていたバランスが崩れ、接合面から電荷を帯びた粒子が叩きだされることになります。この電荷の移動によって、電気が発生します。これが、太陽光発電システムによって電気が生まれる仕組みです。”
太陽電池の種類と特徴とは
“前述のように太陽光発電は、太陽光が当たる事で電気を発生させる性質を持つ「太陽電池」を利用して行われます。しかし、太陽電池は1種類だけではありません。素材や構造によっていくつもの種類があります。以下からは、太陽電池の種類と特徴について解説します。太陽電池を素材によって分類すると、大きく3つに分けられます。シリコン系、化合物系、有機物系です。まず1つ目のシリコン系はさらに、単結晶シリコン、多結晶シリコンという結晶系のものと、薄膜系シリコンという非晶質系とに分かれます。
単結晶シリコンは、変換効率が高く耐久性に優れており、信頼性のある素材です。小さい面積でもある程度の発電量が見込めるため、日本においては、主に家庭用の発電システムで用いられています。多結晶シリコンは価格が安いのが特徴で、現在の太陽電池の主流となっています。メガソーラーや投資用の太陽発電システムに使用されています。薄膜系シリコンは、文字通り薄いことが最大の特徴です。薄いために加工がしやすく、さらに軽量でもあるため、トタン屋根や壁面への設置も可能な素材です。
2つ目の素材である化合物系は、より詳細にはCIS太陽電池、CIGS太陽電池、CdTe太陽電池という種類に分かれます。銅やセレンなどから作られており、シリコンを含んでいないということでシリコン系とは区別されています。コスト面などでの課題から、まだ一般家庭には普及しておらず、現在のところは主に宇宙空間で使用されています。
3つ目の有機物系は、有機物を使って造られており、曲げ加工なども可能な柔軟性が売りです。しかし、耐久性が低いことがデメリットでもあります。有機物系にはさらに、太陽光パネルの色も変えることができる「色素増感系」と、プリント感覚で太陽光発電を造れてしまう、非常に薄い「有機半導体系」とがあります。”
太陽光発電は世界でどれくらい導入されている?
“世界では太陽光発電がどの程度導入されているのかについて、解説します。大きな流れで言うと、太陽光発電の導入量は世界的に見ても拡大を続けています。特に2005年頃からの増加が顕著です。以前は太陽光発電の導入をリードしてきたのは欧州でしたが、近年ではアジア市場における導入量の拡大が目立っています。例えば、2012,2013年と、欧州の太陽光発電市場は冷え込みを見せましたが、この時期にも中国や日本の市場では導入量が急伸しました。
日本の場合、2011年の東日本大震災がエネルギーについて考え直すきっかけとなり、太陽光発電導入の増加につながったと見られています。累積の導入数で見ると2014年時点でトップはドイツ、次が中国、3位が日本で、その次に米国、イタリアが続いている状況です。中国などアジア市場での導入は今後も堅調に伸びることが予想されますが、同時にアフリカや中東なども新たな市場として注目され始めているため、ますます導入量は増えそうです。”
日本でも太陽光発電の導入が増加
“日本における導入状況についても解説しましょう。前述したように、日本の太陽光発電の導入量は、今でこそ世界の中でも多い方です。しかし、最初から順調に普及が進んでいたわけではありません。導入をするとしても、一般家庭が住宅用の発電システムを設置するということが主流で、現在のようにメガソーラーの建設や投資用発電システムの設置はあまり行われていませんでしたので、導入量の大幅な増加にはつながりませんでした。流れを変えるきっかけとなった出来事が、2011年の東日本大震災と、2012年の7月にスタートしたFITです。
東日本大震災で再生可能エネルギーへの注目度が高くなったところへFIT制度が導入されたため、一般家庭向けだけではなく投資用発電システムなども続々と設置されて導入量が上がりました。ちなみにFITは、正式名称がFeed-in Tariffで、いわゆる固定価格買取制度のことです。太陽光発電や風力発電など、再生可能エネルギーで生み出した電力について、一定期間同じ価格で電力会社が買い取ることを国が保証する制度です。電気を買い取ってくれるのであれば、発電システム設置にかかるコストを回収して、なおかつ利益を上げることが期待できるとあって、太陽光発電の市場は急速に拡大しました。
制度開始から2年も経たない2013年度末までに、8.7GWもの設備が導入されています。そのうちのおよそ7割は投資用などの非住宅用発電システムです。結果として、太陽光による発電が発電量全体に占める割合は、2014年度には2.2%にまで増えています。”
太陽光発電の新技術1.塗る太陽電池
“太陽光発電に関する分野では、新しい技術が続々と発表されています。1つ目に紹介するのが、「塗る太陽電池」とも言われる「ペロブスカイト太陽電池」です。ペロブスカイトというのはチタン酸カルシウム鉱物の名前で、灰チタン石を発見したロシアの科学者にちなんでいます。このペロブスカイト太陽電池は、2009年に桐蔭横浜大学の宮坂力教授が、世界で初めて報告しました。有機物と無機物のハイブリッド素材で、材料を基板に塗れば太陽光発電ができてしまうという、非常に簡単な製造工程であることが大きな特徴です。
この特徴から、太陽光発電システムの圧倒的な低コスト化ができるのではないかと期待されています。現在すでに、1平方メートルあたりの発電コストはおよそ150円と、かなりの安価を実現しています。加えて、塗る基板をフィルムのような薄いものにすれば軽量化でき、曲面加工も容易です。但しデメリットもあります。悪天候に弱いという点です。使用を重ねると、5年から10年で劣化してしまうために、実用化に至るまでにはまだ研究が必要でしょう。しかし、もし将来的に実用化すれば、車のボディやカーテンなど、どのようなものにも太陽電池を設置できる可能性を秘めています。”
太陽光発電の新技術2.太陽光変換効率が大幅アップ
次に、太陽光発電システムにおける太陽光変換効率が、大幅にアップしているということについて解説します。変換効率とは、太陽電池が太陽光エネルギーを電気に変換する時の効率を言います。数値が高くなるほど、多くの電気を作ることができるという意味です。現在のところ、市販されている太陽電池の変換効率は、大体15%から20%です。太陽電池の素材の項で述べたように、結晶シリコン系の太陽電池は変換効率が良いために、現在は最もよく使用されているタイプですが、この中でも、変換効率の点で最高性能に達しているのが日本のものです。26.6%という高い変換効率となっています。
太陽光発電の新技術3.発電エネルギーを数週間残せる
“3つ目に解説するのは、発電したエネルギーを蓄えることができるという新技術です。そもそも電気は、作っても貯めておくことができないという性質があります。発電した電気はすぐに消費しなければなりません。ところが太陽光発電の場合、発電量は気象条件に左右されますから、発電量が多い日と少ない日とでどうしてもバラつきが出てしまいます。結果として、需要と供給のバランスをとることが難しいというのが課題となっていました。
そこで、この点については現在盛んに研究が進められています。今のところはまだ、太陽からのエネルギーをソーラーパネルに蓄えることができる時間は、わずかマイクロ秒(100万分の1秒)です。しかし先ごろ、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究者たちが、「エネルギー貯蔵セル」の開発に成功しました。これは、太陽光エネルギーによって発生した電荷を、数日から長くて数週間も蓄えることができる設備です。実用化に至ったならば、「発電エネルギーの維持」という課題が著しく改善されるでしょう。”
太陽光発電の新技術4.透明な太陽光発電
“最後の新技術として、アメリカのミシガン州立大学の研究チームが発表した、「透明な太陽電池」についても紹介します。この太陽電池は、有機分子を使っています。太陽光のうち、紫外線と近赤外線のみを吸収して発電するという仕組みです。エネルギーへの変換効率はおよそ5%前後であり、まだまだ低いと言わざるを得ませんが、この電池が優れているのは「透明」という点にあります。透明ということは、例えば窓に使っても、外が見えなくなって困るということがありません。外側から窓を見た場合にも、景観を損なわずに済みます。
そのため、従来であれば太陽光発電を諦めざるを得なかったようなところでも、太陽光発電システムを設置できるようになるのではないかと期待されているのです。それは、都市部の住宅密集地や、ビルなどの建物が多い地域です。こうした地域は、街づくりの一環で景観を守るためのルールが課されていることがあります。また、他のビルの日陰となり、日照量が限られてしまうケースも多いでしょう。しかし、こうした地域は人口が多いですから、太陽光発電システムを上手く普及させることができれば、逆に、発電量を飛躍的に増加させられるかもしれないのです。”
太陽光発電の課題とは?
“太陽光発電を今後も普及させていくためには、生じている課題を1つ1つ克服していくことも必要になります。以下で、現在あきらかになっている課題について解説します。1つ目の課題は、コストです。現在、太陽光発電導入にかかるコストは1kWで20万円から40万円程度と高く、早期にコストダウンを実現することが求められています。2つ目の課題は、太陽電池の主原料となっているシリコンを、安定的に確保することです。シリコンは現在、多くの半導体製品に使用されており、需要量が増加しています。製造会社は原料を確保するために競合するような状態にあるため、安定的にシリコンが供給されるような環境が求められています。3つ目の課題は、エネルギー変換効率の向上です。
先述したように、変換効率は従来よりは大幅にアップしており、中でも日本のものが最高品質に達しているのですが、それでも変換効率は30%にも至っていません。他に、設置場所の確保なども問題となっています。これらの課題に対する対応策を考えると、やはり、発電量を年間通して安定させることというのが、根本的な解決方法となりそうです。そのために、新技術の研究開発に力を入れることがますます重要となっています。新技術の研究開発が進み、手軽に太陽光発電システムを設置できるようになれば、発電量は安定します。そうすれば、発電システムの設置が当たり前になって、さらに導入コストは下がる、という良い循環が生じるのです。”
まとめ
環境を保全するために、太陽光発電や風力発電などのいわゆるクリーンエネルギーが、世界的にも重要視されています。太陽光発電については世界中で研究が進められている段階で、今後も様々な技術が開発されたり、進化が進む可能性が多いにあると言えるでしょう。
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