二酸化炭素を排出しないクリーンエネルギーとして注目を集めている太陽光発電。とはいえ、トラブルと無縁という訳ではありません。太陽光発電で起こりがちなトラブルとして騒音問題が挙げられます。一般的にはあまり知られていませんが、太陽光発電は人間が不快に思う音が発生してしまうのです。ここでは太陽光発電の騒音原因とその対策方法について解説しています。
太陽光発電の騒音問題はモスキート音が原因
太陽光発電と騒音のイメージが繋がらないという人も多いのではないでしょうか。実際の所「騒音」という言葉が持つ大きな音が発生する訳ではありません。太陽光発電で生じる騒音の正体はモスキート音です。
モスキート音とは、別名をモスキートーンといい、「蚊が発する不快な羽音」という意味があります。17kHz(17000Hz)前後の高周波のことを、モスキート音というのです。人間が知覚できる音は20Hz~20kHz(20,000Hz)ほどなので、モスキート音はかなり高い音だと言うことが分かります。「キーン」という小さく高い音で、「耳が痛くなる」と表現する人もいます。
人間の聴覚は年を取るにつれ衰えていきます。これは加齢に伴って鼓膜が緩んでくることに理由があります。生まれたばかりの頃は20Hz~20kHzの音を聞くことができますが、20代後半に差し掛かると15khz以上の音が聞こえづらくなるのです。つまりモスキート音を不快に感じるのは主に20代前半までの若者ということになります。この特徴を活かして簡単な耳年齢測定を行ったり、深夜の公園などでモスキート音を流して若者がたむろするのを妨げるという試みが取られたこともあります。
太陽光発電とモスキート音。この両者はどこで繋がるのでしょうか。「太陽光発電」と聞いてぱっと思う浮かぶあの青いパネルではなく、システムの一部であるパワーコンディショナーからモスキート音が発生するケースがあるのです。
モスキート音はパワーコンディショナー稼働時に起こる
太陽光発電の導入に不可欠なのが、パワーコンディショナーという機器です。略してパワコンと呼ばれることもあります。パワーコンディショナーは太陽のエネルギーを使える電気に変換する、非常に重要な役目を担う機器です。太陽光パネルで作られる電力は直流なので、そのままでは交流電気が使われている一般家庭では使うことができません。パワーコンディショナーはこの直流電気を、交流電気に変換する役割があります。太陽光発電にとって欠かせない機器なのです。
パワーコンディショナーはマイコンによって制御されています。そのため、稼働している間はどうしても音が発生してしまうことになります。太陽光発電の騒音問題があまり一般的でないのは、この稼働タイミングに理由があります。モスキート音はパワーコンディショナーが稼働している間のみ発生するものです。パワーコンディショナーの稼働時間は、太陽光パネルに太陽光が当たって発電している間になります。つまり夜間にモスキート音が発生することはないので、騒音トラブルが大きくなる原因「うるさくて夜眠れない!」という事態は起こらないのです。
住宅用太陽光発電のモスキート音の大きさは?
近年では屋根に太陽光パネルを設置している住宅も増えてきています。では住宅用太陽光発電のモスキート音は、具体的にどれくらいの大きさなのでしょうか。
騒音の大きさを表す単位に「デシベル」があります。パワーコンディショナーから発生するモスキート音は、一般的に40~50デシベルほどだと言われています。40デシベルとは図書館や閑静な昼の住宅街、ささやき声などの音です。50デシベルになると静かな事務所内の音、あるいは家庭用エアコン室外機の音を直近で聞いているくらいの音になります。
パワーコンディショナーからは、耳を塞がなければならないほど大きな音が出る訳ではありません。しかし音の感じ方は人それぞれ。これくらいの大きさの音でもうるさいと感じる人はいますし、それが日中ずっと鳴っているとなれば不快になってしまいます。また、小さい子供がいる家庭で自宅のパワーコンディショナーの音が気になってしまう、というケースもあります。多くの家庭では騒音に対して無知なまま太陽光発電を設置するので、想定外の音に悩まされる、といった事態が起こり得るのです。
パワーコンディショナーの位置を工夫!住宅用太陽光発電の騒音対策
小さい子供がいる家庭、あるいは大人であっても音に敏感な人は、パワーコンディショナーから出るモスキート音が気になってしまうものです。せっかく設置した太陽光発電が悩みの種になってしまう、という事態は避けたいもの。しかしパワーコンディショナーは発電に不可欠な機器ですから、設置しないという選択肢を取ることはできません。ではどのように対策を取ればいいのでしょうか。
音というのは、音源から離れれば離れるほどエネルギーが拡散するため小さく聞こえます。この原理を利用して、パワーコンディショナーを離れた場所に設置するのが有効な騒音対策です。パワーコンディショナーには屋内設置型と屋外設置型がありますが、どちらを選ぶにしろ、リビングや自室など日中どこで過ごす時間が長いか生活を思い返し、位置を工夫するようにしましょう。屋内設置型を選ぶ際は、廊下などそこにいる時間が短い空間に設置してしまうというのも、おすすめの騒音対策です。
産業用太陽光発電のモスキート音は大きいかも
大規模な発電を可能にする産業用太陽光発電は、パワーコンディショナーが大型化する傾向があります。また設置する数も増えることになるため、必然的にそこから発生するモスキート音も、家庭用に比べて大きくなることになります。
一般的に産業用太陽光発電のパワーコンディショナーから発生する音は70デシベルほどだと言われています。これはセミの鳴き声や騒々しい事務所内、高速道路を走っているときの自動車の中、人間の大きな声くらいの音の大きさとなります。苦痛を感じるほどではないものの、モスキート音を感じる人にとってはかなりうるさい音であることは間違いありません。
防音壁で囲む!産業用太陽光発電の騒音対策
産業用太陽光発電の騒音はかなり大きくなることが多いです。人里離れた場所に設置されているなら問題はありませんが、住宅街の中や集合住宅などに設置されたものは、適切な対応を取らなければ近隣住民との騒音トラブルに発展してしまう可能性があります。とはいえ、産業用のパワーコンディショナーは大型なので、設置場所を工夫するにしても限界があります。その場合は、パワーコンディショナーを防音壁で囲むのが有効な騒音対策と言えるでしょう。
音には、障害物を透過するとエネルギーをロスし、小さくなるという特徴があります。また障害物を避けた音も、その分距離が増えるためやはり小さく聞こえるのです。防音壁が音を小さくしてくれるのは、この原理が働いているからです。防音壁にはパネルタイプやボックスタイプなどいろいろな種類があるので、パワーコンディショナーの大きさや設置場所に応じて適したものを選ぶことが重要になります。性能などに関しても、業者からしっかり説明してもらうことが必要です。
うるさくないタイプを選べばOK!太陽光発電の騒音対策
騒音に無頓着、あるいはまったく無知なまま導入してしまい、トラブルが発生するというケースが多い太陽光発電。「騒音問題が起こる可能性がある」と理解していれば、導入前から対策を行うことが可能になります。そのうちの一つが、最初から騒音が少ないタイプのパワーコンディショナーを設置するというものです。
パネル選びや設置位置選びは、発電量を左右するため慎重に行う人が多いのですが、これに対してパワーコンディショナーについてはあまり吟味しないという人が大半です。しかし最初から静かなパワーコンディショナーを選ぶことができれば、後になって騒音問題に頭を抱えることもありません。
騒音問題に着目しつつパワーコンディショナーを選ぶときは、各メーカーが出している静音性の項目をチェックすることが必要になります。住宅用では、メーカーによっては発生する音が40デシベル以下という商品が登場しています。産業用では50デシベルまで音が下がるタイプのものもあり、住宅地での使用により適したものが発売されています。もちろん防音壁と組み合わせることでより効果的な対策を行うことも可能です。
自分で探すのが難しい場合は、設置に際して業者に相談してみるといいでしょう。業者に言われるまま決めてしまい後で困るというケースも少なくないので、騒音の少ないパワーコンディショナーがないか聞いてみるようにしましょう。
太陽光発電の騒音でご近所トラブルにならないように
太陽光発電を導入する際は、近所の人とトラブルが発生しないよう配慮することが大切です。
住宅用パワーコンディショナーはそれほど大きな騒音を出すわけではありません。また発生するにしても日中だけなので、大きな近隣トラブルは起こりにくいと言われています。しかしそれは全ての場合に当てはまる訳ではありません。音に敏感な人が、近所に住んでいるかもしれません。その人にとっては日中鳴り続ける不快な音はかなりの負担になってしまうはずです。近隣トラブルが起こるとお互いに嫌な思いをすることになり、住み続ける限りは気まずいことになってしまいます。しっかりと対策を行いトラブルは未然に防ぐことが大切です。
ご近所トラブルを未然に防ぐためには、パワーコンディショナーは屋内型を選ぶようにすると良いでしょう。特に住宅地が密集しているという場合に有効です。お互いの家の壁に阻まれて、近所の家にまで騒音が届かなくなります。
屋外型を選ぶときは、通りに面した場所など近隣住宅と離れた場所に設置するようにしましょう。それでも心配なときは更に防音パネルなどを組み合わせるとより効果的な騒音対策を取ることができます。ただし、空調設備の近くにパワーコンディショナーを設置するのは禁物です。かなり大きな騒音が発生することになるため、位置を工夫したとしても近隣への迷惑になってしまいます。
法的処置も辞さない!実際はできるもの?
自宅に設置した太陽光発電であれば、自分で騒音対策を行うことができます。では逆に近隣に設置された太陽光発電の音が不快に感じる場合、どのような行動を取ることができるでしょうか。
自宅に小さな子供がいる場合などは、一刻も早く騒音を何とかしたいと思うものです。中には思い切って法的に訴えることを検討する人もいるでしょう。では、騒音に関する法律の決まりはどうなっているのでしょうか。工事や建築、交通などに関する騒音は「騒音規制法」という法律で規制が行われています。しかし太陽光発電の騒音はこれには当て嵌まりません。それ以外の生活によって発する騒音については、規制する法律が特に存在しません。日本は狭く住宅が密集しているため、多少の生活騒音についてはお互いに我慢していくことが基本となるからです。
環境規制法とは別に環境基本法という法律があり、ここでは騒音に関して「環境基準」という名の基準値が設けられています。地域の類型などで細かく分類されていますが、ここで定められた環境基準を超える音が発生している場合を除き、法的措置に出ることは難しいでしょう。
とはいえ、生活騒音についてまったく決まりがない訳ではありません。自治体では生活騒音について独自に条例を制定しているところも多いので、まずは住んでいる地域の条例を確認してみましょう。厳しい規制を科している自治体はほとんどありませんが、法律や条例を組み合わせることでこちらの言い分を聞いてもらえる可能性は高くなります。
法律を理由に請求する場合は、「受忍限度」を超える騒音であることが必要になります。受忍限度とは、一般人が生活を送る上で我慢できる程度の被害のことで、法律に訴えるのであればこれを超えるほどの苦痛を受けていることが必要になるのです。騒音の受忍限度は単なる音の大きさだけではなく、音の性質や内容、程度、騒音発生のタイミングとその継続状況などいろいろなことが考慮され、総合的に判断されることになります。
全てのケースで法的措置を取ることができるとは限りません。また法的措置に訴えたとしても、すぐに状況が改善される訳ではありません。仮に騒音を理由に裁判になるとお金もかかりますし、判決が出るまでの間ずっと騒音に悩まされることになります。いきなり法的に訴え出るのではなく、快適な生活のためには、まずはお願いという形で音が軽減できないかどうか管理者に相談するのがおすすめです。それで動いてくれない場合は役所にも相談してみましょう。
まとめ
太陽光発電は売電収益や発電効率などに目が行きがちで、騒音に関しては知っている人すら少ないというのが現状です。しかし実際に騒音によるトラブルも起こっているため、導入する前から音について理解しておくことが重要になります。せっかく導入したのに、音のせいで動かせないとなれば大問題です。そこまで大きな音が発生する訳ではないので、対策さえ取ればトラブルを回避することはそう難しくありません。信頼できる業者を見つけ、騒音対策についてしっかりと相談しておきましょう。
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