停電などの非常時に備えて、蓄電池の導入を検討している人が増えています。しかし、業務用蓄電池と家庭用蓄電池のどちらを選べばよいのかわからず、困っているという人が少なくありません。そこでこの記事では、業務用蓄電池と家庭用蓄電池の違いや、それぞれの特徴などについて詳しく解説していきます。ぜひ蓄電池を選ぶ際に参考にしてください。
蓄電池は身近に溢れている
“充電することで電気を貯め、繰り返し使用できる電池のことを一般に「蓄電池」と呼びます。自動車をはじめとする車両・機械のバッテリーや、携帯電話やカメラなどに使われている電池も蓄電池です。蓄電池は日常生活のさまざまな場面で使われており、現代人の生活に不可欠な存在となっています。なかでも注目を集めているのが「ピークシフト」という蓄電池の利用法です。負荷の少ない夜間に充電を行い、負荷がピークとなる昼間に放電をするという方法で、東日本大震災以降、負荷平準化を可能にする技術として需要が高まっています。
蓄電池は「再生可能エネルギー設備の出力安定化」にも貢献しています。太陽光発電や風力発電などは、クリーンな発電方法として知られていますが、天候や時間帯などによって出力が左右されるというデメリットもあります。そこで活躍するのが蓄電池です。再生可能エネルギー設備に蓄電池を組み合わせることで、安定的な電力確保が可能になるのです。また、「非常用電源(バックアップ)」も近年注目されている蓄電池の利用法です。地震や台風などの災害時にも家庭内で電子機器が使用できるようになるほか、オフィスのコンピューターやサーバーなどのバックアップ電源として活用することが可能です。
蓄電池はこういったさまざまな場面で活躍しますが、シーンによって蓄電池に求められる性能や特性は異なります。蓄電池にも種類があり、用途に応じて適切なものを用いる必要があります。代表的なものは鉛蓄電池・ニッケル水素電池・リチウムイオン電池・NAS電池の4種類で、それぞれの特徴を把握したうえで使用することが大切です。”
鉛蓄電池は二次電池の中でもっとも歴史がある
“「鉛蓄電池」は、1859年に開発されたもっとも古い歴史をもつ二次電池です。正極に二酸化鉛(PbO2)、負極に鉛(Pb)、そして電解液に希硫酸(H2SO2)が用いられています。自動車のバッテリーとして利用されていることで有名ですが、他にも非常用電源やフォークリフト、ゴルフカートなどの電動車用主電源など、さまざまな用途で使用されています。使用実績が多く、安価で信頼性に優れていることが大きな特徴です。ただし、使用回数が増えるに従って性能が劣化し、電池の寿命が大幅に低下してしまうという側面もあります。これは、充電を繰り返すと負極の金属に硫酸鉛の硬い結晶が発生してしまうためです。そのため、放電し切る前に充電を行うなどの工夫が必要になります。
自動車用として使われる鉛蓄電池は「ペースト式」と呼ばれ、格子体の骨組みにペースト状の活物質を塗り込んだ極板が使われています。高率放電用途に適しており、非常用電源として利用されるのもこのタイプです。フォークリフトやバックアップ電源などに使われるのは「クラッド式」と呼ばれるタイプで、衝撃や振動に強く、寿命が長いという特徴があります。焼き固めたチューブ状のガラス繊維に極板活物質を充填した極板が採用されています。サイクル数は3,150回、耐用年数は17年程度です。”
ニッケル水素電池は安全性が高い
“「ニッケル水素電池」は、環境への影響が少なく、安全性が高いという特徴があります。人工衛星用のバッテリーに求められる「高出力・高容量・長寿命」という要素の実現を目指して開発されました。1990年に実用化され、当時主流であったニカド電池よりも2.5倍の容量を実現したことや、環境にやさしいことなどから注目を集め、一気に普及しました。ニッケル水素電池では、正極にオキシ水酸化ニッケル(NiOOH)、負極に水素吸蔵合金が採用されています。電解液に用いられているのは水酸化カリウムのアルカリ水溶液です。エネルギー密度が高く、過充電・過放電に強いこともニッケル水素電池の長所です。
こういった特性から、乾電池型二次電池や、ハイブリッドカーの動力源として利用されています。また、鉄道やモノレールなどの地上蓄電設備(BPS)にも採用されるなど、ますます活躍の場が広がっています。なお、ニッケル水素電池の耐用年数は5~7年程度、サイクル数は2,000回程度となっており、寿命はやや短い部類といえます。”
リチウムイオン電池はモバイル機器バッテリーとして活躍
“携帯電話やノートパソコンなどに使われるバッテリーとして有名なのが「リチウムイオン電池」です。高容量かつ小型軽量であることが特徴の二次電池で、1991年実用スタートされて以降、電子機器には欠かせない存在となりました。正極にリチウム含有金属酸化物、負極にグラファイトなどの炭素材が用いられています。また、電解液に用いられているのは有機電解液です。非水系の電解液であるため、エネルギー密度が高いという特徴があります。充放電エネルギー効率も高いほか、残存容量や充電状態などが監視し易いということも大きなメリットです。
リチウムイオン電池は自己放電が少ないため、モバイル機器のバッテリーに適しています。電気自動車などの動力源や、スマートグリッドの蓄電装置としても注目されている存在です。また、住宅やオフィスの蓄電池としても採用されています。耐用年数は6~10年程度、サイクル回数は3,500回程度で、寿命の長さもリチウムイオン電池の特徴のひとつです。ただし、保存状態や充電方法で寿命が大きく左右されることもあるため、取り扱いには注意が必要です。”
NAS電池は大規模な電力貯蔵施設などで活用
“「NAS電池」は、日本ガイシ株式会社が世界で初めて実用化したナトリウム硫黄電池です。現在も世界で唯一、日本ガイシ株式会社だけが製造を行っています。正極に硫黄、負極にナトリウム、電解質にはβ-アルミナが用いられており、効率のよい充放電が可能です。リチウムイオン電池と同等のエネルギー密度と、鉛蓄電池よりも低価格・長寿命をコンパクトサイズで実現しているという特徴があります。そのため、工場のバックアップ用電源などの用途で利用されています。電力負荷平準によるピークカットなどの目的にも活用することが可能です。
また、大規模電力貯蔵施設に適用できることもNAS電池の特徴のひとつで、600kWから数万kWの規模まで適用することが可能です。大容量ながらも自己放電が少ないため、約6時間の安定した接続時間を実現しています。また、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー設備の出力安定化にも高い性能を発揮します。「ミリ秒単位のレスポンス」といわれるほど応答性が高く、太陽光発電や風力発電における秒オーダーの急速な変動にも問題なく対応することができます。
NAS電池のサイクル回数は4,500回程度、耐用年数は約15年と、産業用として十分なタフさを備えています。長期間にわたって安定した電力供給が可能です。ただし、ナトリウムと硫黄という危険物を扱うためメンテナンスには注意が必要です。専門スタッフによる保守作業が欠かせません。もっとも、ナトリウムや硫黄などの原料を使用していることによるメリットもあります。蓄電池に希少金属を一切使用していないため、資源による制約を受けず、安定した製品の供給が期待できるということです。急な生産中止や価格高騰の恐れがほとんどないため、安心して大規模に事業を展開することが可能です。”
業務用蓄電池と家庭用蓄電池では価格と要領に大きな差が
“一口に「蓄電池」といっても、業務用蓄電池と家庭用蓄電池との間には大きな違いがあります。もっとも大きな違いは容量です。産業用蓄電池はオフィスや工場、公共の施設などでの利用を前提に設計されているため、家庭用蓄電池の数倍~数十倍以上もの容量を備えていることが一般的です。その分サイズも大きくなり、一般家庭では設置に困るほどの大きさになります。一方、家庭用蓄電池はかなりコンパクトな設計になります。種類によっては一人で運ぶことも可能です。また、業務用蓄電池には、UPS(無停電電源装置)機能などの特別な機能が備わっているという特徴もあります。
こういったことから、業務用蓄電池は、家庭用蓄電池に比べて価格もかなり高くなります。家庭用蓄電池は数十万円から数百万円が一般的な価格帯になりますが、業務用蓄電池を導入する場合は、最低でもその数倍をみておく必要があります。”
業務用蓄電池の特徴とは
“オフィスや工場のバックアップ用電源などの用途で利用される業務用蓄電池は、大容量である分、寿命も長くなるという特徴があります。放電・蓄電を8,000サイクル以上繰り返しても耐用可能な高性能タイプもあるほどです。蓄電容量については、十数kWhから20kW台のものが一般的です。しかし、最近では60kWhを超える大容量タイプの蓄電池もリリースされています。容量が大きいため、価格も高額になる傾向があります。また、状況に応じてUPSやCVCF(定電圧定周波数装置)を設置する必要があります。
UPSとは、停電になると瞬時に電源の切り替えを行う装置です。停電によるパソコンやサーバーのシャットダウンを回避し、データの損失を防止することが可能になります。しかし、なかには電源の切り替えによって不調になる電子機器も存在します。そういった場合は、CVCF機能を持つ電源装置を選択することが安全な方法です。また、UPSには常時商用電源方式やラインインタラクティブ方式、常時インバータ給電方式などの種類があり、施設に適したものを選ぶ必要があります。
このように、業務用蓄電池はサイズの大きさに加えて付帯機能などのコストも発生します。そのため、設置に数百万円程度かかることは珍しくありません。規模によっては1,000万円を超えることもあります。”
家庭用蓄電池の特徴とは
“家庭用蓄電池を導入することで電気料金を大幅に抑えることが可能になります。蓄電池があれば、夜間に貯めた安い電力を日中に使用することができるためです。あらかじめ電力会社の夜間プランを選択しておく必要がありますが、これによって1kWhあたりの料金は11円前後(東京電力の場合)になります。また、家庭用蓄電池には、太陽光発電システムやオール電化住宅と連携できる機能を備えていることが多いという特徴があります。そのため、家庭内のエネルギーを総合的に運用することが可能になり、さらなる節約を期待することができます。
こういった考え方は「エネルギーマネジメント」と呼ばれ、電気料金を最小限に抑えることを可能にします。例えば、夜間に貯めた安い電力を日中に使えば、太陽光発電システムの電力はほとんど不要になり、発電した電力のほとんどを売電することができるのです。また、蓄電システムに合わせて家庭内の電気製品を制御したり、電力会社から購入する電力量を調整したりするシステムも登場しています。もちろん、災害時の停電用バックアップとしての役割も期待されており、それに耐えうる容量のものが普及し始めています。
蓄電容量は1kWh台から15kWhまでが主流となっています。価格は容量や仕様、メーカーなどで異なり、数十万円台から200万円台まで幅広く設定されています。実際に家庭用蓄電池を導入する際は、経済産業省の補助金制度を利用することで、販売価格よりも安く購入することが可能です。”
一般家庭には家庭用蓄電池で十分
業務用蓄電池には、家庭用蓄電池よりも容量が大きいというメリットがあります。しかし、オフィスや工場と一般家庭とでは、使用する電気の量が全く異なります。そのため、業務用蓄電池の容量は、一般家庭で使うには不必要なほどの大きさといえます。サイズが非常に大きいため、設置場所などに困ってしまう恐れがあります。また、導入の費用やメンテナンスのコストという大きな問題もあります。オーバースペックなものを購入するということは、それだけ無駄な費用を支払うということになります。いくら優れたエネルギーマネジメントのシステムを取り入れたとしても、初期費用を回収することは極めて困難です。そのため、業務用蓄電池は家庭での使用に向いていないといえます。一般家庭には、家庭用蓄電池で十分です。
まとめ
このように、業務用蓄電池と家庭用蓄電池にはさまざまな違いがあります。どちらが優れているというものではなく、一般家庭で導入する場合は家庭用蓄電池を選択するなど、それぞれの特性に合った方法で活用することが大切です。また、太陽光発電システムやオール電化住宅と連携させれば、大幅な節約が可能になります。エネルギーマネジメントまでは考えていないという人でも、災害による停電時など、いざという時のために蓄電池の導入を検討してみることをおすすめします。
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